【 engawa young academy 】 メンターインタビュー 日本たばこ産業篇
#インタビュー
※第一回インタビュー(みずほFG)はこちら
右奥) 日本たばこ産業 人事部 比嘉 将大さん
右手前) 日本たばこ産業 人事部課長代理 廣瀬 理子さん
左)インタビュアー) 電通 京都BAC engawa young academy 事務局 湊 康明
―eya初日を終えての率直な感想をお聞かせ下さい。
比嘉さん:まだまだ分からないことだらけなんですけど、参加者の皆さんが''前提を疑えるようになる''ともっと楽しいだろうなと思います。疑うというか問い直すというか…。せっかくだから与えられたものを消費するだけではなく、「こうなったら面白いよね」と(批判するよりも)無邪気に問いを出せるともっと面白いし、それが出来る人たちだと思いました。
―午前中のチームクリエイト※の様子を見てどのように感じられましたか?
※eya期間中のグループメンバーを、学生自身に決めてもらうプログラム
比嘉さん:自分が何かをやると言うのは、いろんな側面があります。選ぶということは選ばないということだし。自分がどんな怖いことをしているのだろうという意識が大事だと思いました。選ぶ選ばれるってプリミティブな快・不快に繋がるんです。選ばれると嬉しいし、選ばれないとモヤモヤしますよね。そこに惑わされないことが大事だと思います。それは僕たち採用の仕事もそうだと思います。人を判断するのって、人間の技じゃないなと思うんです。それでもそれが必要とされているし、そもそも人を迎え入れるのはリソースが有限な以上どこかで線を引かなければいけない。そして線を引く時に「ここに本当に線を引いていいのか」というのは慣れちゃいけないなと思うので、みんなには慣れて欲しくないですね。
eya初日、学生と語る比嘉さん
―それに慣れるのは本当に怖いですね。。。
では、午後の話になりますが、メンタードラフト※はどう感じましたか?
※メンターが企業名を隠して、学生に対して自己紹介プレゼン。学生が希望するメンターを指名するプログラム。
比嘉さん:すごくいいんじゃないですか。大人になると試されなくなってしまうので。基本的にYounger is betterなんです。会社に絞っても、僕たちが自分達よりも年下の人たちより長く会社を担うことは出来ないので、Younger is betterだなと思うんです。それなのに、人事はおおっぴらには基本的に試されないんですよ。給料もらっているのに。そういう意味ではすごくいいと思います。
ー大人も試される、というeyaの狙いに共感頂けてうれしいです。では、ここから御社のことについて伺っていきたいと思います。日本たばこ産業(以下、JT)について、よく知らないという学生に向けて、このような企業です、というご紹介をお願いします。
比嘉さん:JTのやることは二つしかないのではないでしょうか。''美味いたばこを作ること''と''それに集中すること''です。これ以外やっていなかったし、これからもそれ以外やる気はない。''美味いたばこ''とは何かというのは、社員が本気で考えていくことです。
シガレットと答えるのは、確かにマジョリティーですが、廣瀬さんだったらdocdog※を美味いたばこだと言うんです。「“たばこ”というものがすごく好き」という事への共感がないと、JTで働くことは多分厳しいと思いますね。
docdog: 獣医師監修、犬の靴と靴下の専門店
https://www.docdog.jp/
―docdogを''美味いたばこ''と言えるのは、どういうブリッジ、捉え方なんでしょうか?
比嘉さん:僕の解釈だと、喫煙している時間の流れ方と犬の散歩の時間の流れ方や感覚ってすごく似ているよねという事だと思います。
廣瀬さん:docdogは関連会社に出向していた際に関わっていたサービスです。比嘉のいう「美味いたばこ」という表現は特徴的ですが、私なりの言葉にブリッジすると「私たちが創業時から扱っているたばこの持つ効果・効能から再解釈していくプロセス」だと感じています。たばこには八徳※という8つのクラスターに分割される心理的効果があるとの研究報告があります。
私は八徳には時代の流れに合わせて強調される効果があり、濃淡があるという仮説をもっていました。例えば、自分の生活の中に句読点を求めた時代(経済成長期)、リフレッシュする時間を持ちたいと思い八徳の中でも「集中促進効果」を求める人が増える。例えば、社会にオンラインプラットフォームが増えていくとリアルな場・仲間という接点が弱まることから''場のコントロール''という効果を求める人が薄れてくる、みたいな。私は入社後、たばことは一見関係のない事業を立ち上げましたが、たばこの持つ効能(喫煙所でのコミュニュケーション=場のコントロール)と犬の散歩がリンクすると思いました。もちろんペット市場に対する強い想いがあったことが前提ですが、JTとも関わりを持つ身として、それは「美味いたばこ」の表現であったとも思います。
※喫煙八徳:集中促進効果・自己回帰効果・感情充足効果・開放増進効果・演出効果・場のコントロール効果・関係構築効果。
―なるほど。そういうことなんですね。
続いてですが、御社のインターンや採用活動をする上で、求めている人財像など、重視されているポイントはありますか?
比嘉さん:明確な定義は特にないです。むしろ定義できないからこそ出会える人がいると思っています。ただ「こういう人はきついよね」っていう人は、誤魔化すとか誠実じゃない人です。例えば工場でたばこを大量生産しているので、工程のなかでたばこが何本か落ちたりする事もあるんです。それをポケットに入れて喫煙所で吸うのも出来るわけですよ。でもこれは脱税になります。紙巻きたばこは出来た瞬間に税金がかかっているので。なので、誠実さは必要ですよね。あとは''自分のやっていることはどういうことなのか''それこそ、選び選ばれる行為の意味をちゃんと考えられるかですね。気づかぬうちに搾取をしたり、ひどいことをしていないかです。
廣瀬さん:人事部長は、今、比嘉が話したような事を“高潔性”と一言で表現しています。このように最小限で定義した人物像に、各人の趣意が加わると思います。私が今大事にしているのは“逞しさ”です。うちの会社は厳しい経営状況です。どう考えたって、急に嫌煙風潮が緩和され「たばこ最高!」みたいになることはないでしょう。そのときJT社員として継続と継起を試みるには、闘志が必要になります。自分でやると決めたことをやり切るには、パッションを持っている人じゃないと打破できません。だから私が仲間になってほしいと思うのは、何よりも闘志のある逞しい人です。
そしてたばこを吸わなくてもいいのでたばこが好きな人を求めます。自社商品に嫌悪感があれば本人にとっても辛い仕事になるだろうし。たばこを好きな人たちが現実直視をしながら試行錯誤を繰り返す、その姿が必要です。
比嘉さん:僕は狂気ですね。正常に狂うって結構大事だと思うんです。単純に狂うとか最近で言えばジョーカーになるのはめっちゃ簡単なんですよ。狂人になるのはそんな程度の高い話ではなくて、ハチャメチャやるのは誰でも出来るので正しく狂うを換言すれば理性的に狂うですね。自分なりの仁義を持ちながらギリギリのラインを突っ走るというのは、超高難易度だと思います。Don’t be evilですね。グーグルは最近変えてしまったけど、まさに邪悪をしないというDon’t be devil。ある程度狂気がないとダメで、ただそれは程度が低いと主語は自分になってしまうんですよね。
―たばこという製品を扱っていることを、強く意識されているんですね。
廣瀬さん:まさにそのポイントが大事だと思っています。戦後、たばこを吸う人が増え“嫌煙権”を生んだ背景を作っています。ひるがえって現在、“喫煙者の権利”はどこにいってしまったのかと言いたくなるほど嫌煙風潮です。JTは、マジョリティーとマイノリティの相反する立場を経験しているからこそ、自分以外の何かに向き合う時の“真摯さ”の重要性を痛感しています。その経験が有るからこそ、“言葉だけでなく本当の多様性を育める会社”という器を持ち合わせている(その可能性がある)と信じています。
比嘉さん:僕がすごく好きな漫画の“パンプキンシザーズ”のセリフで、「紅茶もミルクティーも等しく尊い。しかし、その世界においてストレートティーを味わうことはもうできない。」というのがあります。紅茶って美味しいし、ミルクを入れても美味しい。でもミルクティーはストレートティーに戻らないじゃないですか。だから「その世界でしか出来なかったことは本当にないか」を検討しながら慎重にミルクを入れていくというのが大事なんです。それでもミルクティーも美味しい。だから僕は“世界の切り替え”は一方通行だと思っているんです。アンビバレントと向き合えるのはそういうことなんだなと思います。それを一つ一つ閉じる・閉じられるということをちゃんと考えるには“誠実性”や“想像力”が大事ですよね。これはテクノロジーにも転用可能だと思いますね。もう僕たちはツイッターや2ちゃんねるのない世界には戻れないですよね。
―正直、このインタビューでそこまで深い話が聞けるとは思ってもいませんでした。。。
もっと深く聞きたいところですが、インタビューを続けたいと思います。インターンとか採用における課題はありますか?
比嘉さん:課題じゃない所がないんですけど(笑)。短期的には魅力的なアジェンダやコンテンツを並べて、ジョブ型採用をすることが合理的だと世の中では言われています。ただし長い目で見たときには、深い相互理解が必要だと思っています。一緒に続けたいかどうか、とかってなると、やはりお互いの物語を共有しなければいけないんです。分かりやすく言えば、廣瀬さんの中に僕がいて僕の中に廣瀬さんがいる状態って結構幸せなわけですよね。「廣瀬さんだったらこう考えるよな」というのを自分の中に育てられるかですね。それは対会社でもある種一緒だと思うんです。
“自分の中にJTがあるしJTの中に自分がいる”という状態にするのは結構時間がかかるし、手法を丁寧にしなければ、一歩間違えると洗脳になってしまう。だからそこの線引きは難しいですね。
―そもそも今、御社にとって厳しい時代の中にいるということを分かってもらった上で来てもらうというステップを大事にされている。
だからこそ、そこが課題だと思われているんですね。
廣瀬さん:はい。就職をすると、単純に商品を売るという以上にひとりひとりが社や商品・サービスについて考える機会がきっと多くなります。これは入社後に実感した話ですが、小学校の教科書には「喫煙したら体にこんなに悪い」という内容が書いてあります。そうすると子供を持つ社員は、「パパの仕事なに?」「ママの仕事なに?」と言われるとグッと考えるんですよ。自分が就職した後に、“自分の会社の意義“とか“なぜ自分がここで働いているのか“を、うちの会社の社員ほど考える機会が多い他社はないと思います。そうすると表層的な答えでは生き続けられないし、一人一人が何かしら哲学・実践術のようなものを持たないと働くことが辛くなると思います。そういう意味で、社員になる前に、”JT”と”わたし”、“社会”の繋がりについて自主的に想像力を働かせる思考機会・体験を用意することが、就職のミスマッチを減ずるうえで重要な観点であると考えています。
比嘉さん:そこの解釈の仕方が大切だと思っています。主語をJTにしすぎると、よくある「経営戦略を考えてみましょう」みたいになってしまう。だったらJTっぽいことを考えてもらおうということで、違うテーマにずらしてみたりしています。例えば、“物語における脇役ってなんなんだろう”とかですね。実はそれがJTっぽいんです。迂回しながらですが、山登りのように頂上に近づいてくる感じです。ただ一方で、それは僕たちの勝手な妄想でもあります。平たく言えば、参加した人がどう感じるのかはなかなかPDCAが回らないんですよね。その時に仮説でしか動けない中で、やり過ぎると洗脳になるし、やらなさ過ぎるとコンテンツになるという泳ぎですよね。そして、その泳ぎは誰かのためになっているのか。参加してくれた人に何かお土産を渡せたのかですよね。
―学生が御社に持つイメージの今と、これからどうなってほしいとかはありますか?
廣瀬さん:皆さん、どのようなイメージをお持ちですか?堅くて安定している、時代遅れというイメージを持っているのではないかと思います。
比嘉さん:(人事部採用チームとしては)そのイメージを変えようとは思っていないです。変わるとしたら皆さんからそうじゃない見方を持ってもらえた時しか無理ですね。でも変わるための仕込みは沢山します。例えば、インターンのテーマも経営戦略ではなく“遊びをつくりましょう“にしたりだとか。「なんでJTがこんなことをやっているんだろう」と興味を持ってくれた人が掘れるようにしておくことがすごく大事なんです。
廣瀬さん: “いつかいい出会いをしましょうね”という感じです。日々その準備をしています。
―ありがとうございます。
では、ここからeyaについて聞いていきたいと思います。今回、参加された意義やメリットをどうお考えですか?
比嘉さん:土地によって物の見方や体の動かし方・感情の持ち方が変わるじゃないですか。それを特に京都という土地で営む方々と、何か共に時間を過ごせたらいいなと思っていました。そもそも京都で日々を一生懸命に生きている人はどんな人なんだろうということに興味を持ちました。僕は特に東京の大学に行っていたので分からなくて。
―メンターとしてご参加する中で、期待されていることはありますか?
比嘉さん:人に何か教えられるほど出来た人間ではないです。変な意味ではなく、僕はまだまだ修行すべきことが沢山あると思っているので、一緒に修行したいなとか、皆さんから学ばせていただきたいなと思っています。Younger is betterなので。
廣瀬さん:時間軸が長いプロジェクトになるので、対話量が多くなります。“寄り添いあって向かい合ってお互いのことを知り合う”という意味ではいい環境だなと思います。それこそengawaに腰掛けてお茶飲んで「美味しいね」からはじまる関係みたいな。
―今回はいろいろな企業の方と人を育てる取り組みになりますが、それに対して刺激とか期待する効果はありますか?
廣瀬さん:私は、比嘉がJTの仲間になり、会社の可能性が広がったと感じています。それと同じように、内外関係なく“この会社と知り合えたから可能性が広がりそう”っていうのはあると思います。それぞれ異なる色合いを持った組織が一つの方向性(こと)に向き合っている状態で出会うからこそ、互いをよく知れるだろうし、学生さんとだけではなく、他社さんとも何か面白いことが出来たらいいなと思います。
―では、メンターとしてeyaの学生に向けて、一言お願いします。
廣瀬さん:窮屈にならないで欲しいなと思っています。人から「あの会社の方がいいよね」と色々言われたり、周囲の目を気にすることもあると思いますが、シンプルに自分の目で見て感じたものをインプットとし、自分らしい表現ができる人であってほしいなと思います。それは学生さんたちだけでなくて、私もそう在りたいです。おたがい、自分が誇りを感じられる選択をしていきましょう!
比嘉さん:それで言うと“どこからでもどこまででもいける”という72歳のお爺さんから教えてもらった言葉を贈りたいと思います。