多業種合同インターンプログラム 「engawa young academy」とは?
#インタビュー
engawa KYOTO 発の学⽣向けインターンプログラム「engawa young academy」が、2019年10⽉からスタートします。この取り組みにあたり、プロジェクトの共創パートナーである(株)リンクアンドモチベーションの樫原さんと、もう⼀⼈の⽣みの親、(株)電通京都ビジネスアクセラレーションセンター(以下、電通京都BAC)プロジェクトリーダー前⽥EPD からお話を伺いました。(インタビュアー:当プログラム事務局メンバー 電通京都BAC 湊 康明)
湊:まず、⼈材のプロである樫原さんにお伺いします。現在の企業の⼈材における課題は、どういったものでしょうか?
樫原さん: 企業も実にざまざまですが、私は16年間⼀貫して⼤⼿企業の⼈材採⽤を担当してきましたので、⼤⼿企業に限定してお話をします。ちなみに、⼤⼿企業は、“⼈を充⾜する“という意味では、あまり⼤きな課題はないです。もっといえば、会社のいわゆる屋台⾻を⽀えるようなオペレーションをしっかり回せるような⼈材は、きっちり採⽤活動すれば採れているのが現状です。ただ、2018年度の決算で、⽇本で最も利益を稼いでいるトヨタ社ですら「10年後⾃分たちが存在するか分からない」という強い危機感を持っています。それくらい、⽇本の⼤⼿企業はかつでないほどの厳しい競争にさらされています。その意味で、⽣き残りをかけた「イノベーション」が経営課題になりつつあります。では、誰がその「イノベーション」を起こすのか?少なくともオペレーションを正確にまわすことが得意な⼈達に「イノベーション」を起こすのは難しいのです。なぜなら、役割が違うので。だからこそ、企業の変⾰・新規事業の⽴ち上げ等を担える「タイプの違う⼈材」を採って、活かす。このことが、重要な⼈事課題になってきています。
湊:だとすると、今後企業に⼊っていく学⽣の皆さんに求められるものが変わっていくと思うのですが、現在の学⽣についてこうなって欲しいなどの想いはありますか?
樫原さん:「イノベーション」において、0から1を創り出すことも重要です。ただ、⼤⼿企業において⼤事なことは、多様なものを組み合わせ、多様な⼈達を巻き込み、新しい事を仕掛けていくことです。たとえば、「今後社会で活躍していくためには、全部の事が分からなきゃいけない」と⾔う学生もいるのですが、これは現実的には極めて難しい。実は⽇本には、優秀な、素晴らしいエンジニアがたくさんいます。ただ、不⾜しているのは、ビジョンを⽰し、エンジニアを巻き込んで、何かを成す「リーダー」です。⻄遊記で例えるなら、「天竺に⾏く」という⽬的を⽰す「三蔵法師的な⼈材」が不⾜しているわけです。だからこそ、“会社をどう変えていくか”“何をすべきか”といったWHY やWHAT を定義して、HOW のスキルを持つ多様な⼈たちを巻き込みながら、組織・チーム・プロジェクトを創っていける様な⼈材が求められています。ただ、残念なことに、これまでの⼈⽣の中で、リーダーシップを発揮してきた、まさに「リーダー資質」のある学⽣が、社会に出る段階で、なぜか、その強み・資質を発揮しようとしないのです。むしろ、⾃分の弱みを克服するという視点でファーストキャリアを選択しがちです。本当にもったいないことであり、社会的に⼤きな損失といえます。
湊:確かに!
樫原さん:その意味で、“組織を変⾰できる経験や関⼼を持つ学⽣が、社会でその⼒をそのまま発揮していく”というストーリーが⼤切だと考えています。つまり、リーダーの素質を持つ⼈間は、社会に出てもリーダーとして⽣き、その⼒をより開花させていくことが重要です。リーダーだけど、まずは⼒をつけて、またリーダーに戻るという思考スタイルをとっている⼈が多いので、そうではないキャリアの道筋をつくっていかないといけないですよね。これまでの⼤⼿企業の多くが、基本的には学⽣を⼀律同じように育てていましたが、同じ扱いではなくそれぞれ状況やポテンシャルに合わせたキャリアを創っていかないと、会社も⽣き残っていけません。⾔い換えれば、より⼤きな⼀歩を踏みたい、若いうちから挑戦をしたいと考えているセグメントに対して、どのような機会・環境を創っていけるかが、重要です。残念ながら、そういう想いを持った学⽣は、⽇本の⼤⼿企業を見ていないことが多いのが現状です。これは、⾮常に悲しいなって思います。
湊:その中で今回、engawa young academyが⽣まれることになるわけですが、これにかける想いをお聞かせいただけますか?
樫原さん:⼤⼿企業の採⽤の⽅に良く聞かれます。「40 代で役員になれるような、エンジンの⼤きい、リーダー⼈材はどこにいるのか?」。最近、想うのは、もはや、この「探すパラダイム」の限界です。もっといえば、そのような「⼈材」への需要と、供給がアンマッチしています。それにも関わらず、⼤⼿企業は、さまざまな⼈材サービスを活⽤して、「効率的」にその「⼈材」を採ろうとしている…。北は北海道から、南は福岡まで、全国の学⽣と年間数百⼈と数年間、⾯談をし続けていますが、そのような「⼈材」が、安定的に輩出されている「機関」が、私の知りうる限り、ないのです。もちろん、偶然、ある年に、いたりはしますが。その意味で、このengawa young academy で実現したいことは、「探すパラダイム」から「育むパラダイム」への変換です。「モノづくりは⼈づくり」「教育は国家百年の計」という⾔葉にも代表されるように資源の乏しい⽇本は、⼈を育て、磨くことで、成⻑・発展してきました。変⾰の時代だからこそ、その「原点」に戻るべきだと強く想っています。その意味で、engawa young academyでは、個社の利害を超えて、ALL Japan の精神で、次代を担う⼈材を、みんなで育み、磨き、活かすという挑戦をしたいと考えています。
湊:樫原さんのそういった想いもあって、engawa young academyが⽣まれた訳ですけれども、実際にこうして形になったきっかけ、コンセプトについて、前⽥EPDからうかがえますか。
前⽥:松下幸之助の経営哲学で、“ものをつくる前にひとをつくる”とある様に、⼈を創っていかないと教育改⾰も社会変⾰も出来ません。「じゃあ、将来の⽇本を背負って⽴つような⼈間を創ろうよ」という話を樫原さんとずっとしていて。そこで、この“engawa KYOTO”⾃体のコンセプトが、中と外を繋げる曖昧な空間で、まさしく僕らの話していたコンセプトと⼀緒で、この変化の激しい・不確実な時代だからこそ、外と共に創る=共創して、お互いその摩擦で磨き上げられていかないと、⼈間はもう育っていかないと思っているので、この場を使ってよりリアルな場所で、僕らが話していたようなことを⼀つのアクティビティとして実現させようとなりました。全てはこの場所“engawa KYOTO”があったからこそ、普通に話していたことをここでアウトプットして結実させることが出来たのだと思います。単純に、電通とリンクアンドモチベーションだけであれば、リンクアンドモチベーションのセミナールームとか電通の会議室とかでやっていたと思います。そうなると、ユニークネスが無いし、きっと学⽣も惹かれるものがない。逆に⾔えば、ここ、“engawa KYOTO”のコンセプトがあるからこそ、集まる学⽣と今回ご参加いただく企業も⾯⽩い、となったのだと思います。学⽣も⼀つのステークホルダーであるということを考えた時に、その“学⽣”と“⼤⼿企業”などの⾊々なステークホルダーの⼈間が集まるからこそ、お互い摩擦で磨きあうことで、学⽣にも企業にも、企業同⼠にも、異業種他社との新しい価値みたいなものを⽣み出していけるのではないかなと。それにより、将来的にもいろんな変⾰を⽣み出せるのではないかという想いで、こういくプログラムをつくりました。
湊:このプログラムへの参画企業を募るにあたって、どのようなニーズがあると感じていましたか?
前⽥:やっぱり企業って⼤⼿企業になるだけ、それだけ歴史がある訳です。そうすると、歴史として起業した時の理念は残ってはいるけれども、今となってはやはり⾃分達のドメインをどう粛々と回していくのかが問われます。その時、次の10年20年を任せられる⼈間を本当は育てていかなければいけないのです。が、企業に⼊ってしまうと企業に準じてしまいます。ただ、それに対して危機感を持ってくださっている⽅は沢⼭いると思います。企業の中で新しい企業を起こせる=新しいドメインを創るような学⽣さんを欲しがっているし、育てたがっています。それは僕らの今回のコンセプトの⼀つでもありますし、今回の6社※も⽇本の産業・企業・事業を⽀える⼈間を欲しているのだと思います。※参加企業:株式会社島津製作所、積⽔ハウス株式会社、⽇本たばこ産業株式会社、パナソニック株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社電通の6社
樫原さん:そうですね。なので、今回のプログラムはかなり理念型だと思います。コンセプトや⽬指すもの・その世界観への共感が今回の参加企業の共通条件です。“⾯⽩そう”とか“意味ありそう”とか、そういう事が先⾏していて。みんなで⾯⽩いもの・新しいものを京都で創っていくのっていいよねっていうワクワク感みたいなものが、プログラムの参加者の皆さんの前提にあると思います。いい⼤⼈がみんなでやろうぜ!みたいな。
前⽥:参加される企業の皆さんもすごく危機感を持っていらっしゃるのだと思います。ただ、中から変えることがなかなか難しいから、変えられそうなやつがどんどん会社に⼊ってきてくれたらいいしっていう事だよね。そうでないと…ノキア(NOKIA)があれだけ携帯電話で全盛を誇っていたのに、最後はマイクロソフトに売却してしまいましたよね。同社CEOの⾔葉で「We didn't do anything wrong, but somehow we lost(我々は何も間違ったことをしていない。しかしどういうわけか、だめになってしまった)」とありますが“普通にしていたら、失敗していなくても事業がなくなっちゃう・消え失せちゃう”そんな危機感を皆さん持っていると思います。そういった思いへの共感が、参加する企業を募るにあたってのポリシーだったのですが、樫原さんがおっしゃった様に、皆さんそのコンセプトに対して⼤きく賛同してくださって、今回の6社に繋がりました。
樫原さん:電通さんと弊社の組み合わせも結構⾯⽩いですよね。初めてですよね?ずっと商品市場に向き合って世の中を追ってモノをどう展開していくか、ブランディングに関わる電通と、⼈材育成でずっと労働市場に向き合っているリンクアンドモチベーションが、⼀緒に⼿を組んで新しいことをやるっていうこと⾃体が実は事務局サイドのイノベーション。つまり、事業に向き合う電通さんと組織に向き合う弊社が⼿を組んでそういうリーダーを創ろう・役割分担をしながらやっていこうっていうこと⾃体がものすごく新しいですよね。だから、うちの会社でもワクワクしている社員が多いんですよ。事務局サイドの“何か新しいことをやりながら”という気概に共感してくれている感じはありますね。
湊:ありがとうございます。では、engawa young academyがどういうプログラムになっていくのか、お話しできる範囲でお願いできますか?
樫原さん:⼤きな⽬的は、企業のど真ん中で活躍出来るリーダー、イノベーターをつくることです。ざっくり⾔うと、前半は「誰に何を」というのを定義していく様なリベラル・アーツと、それをどの様にしていくかというビジネス・イノベーション。コンセプトはその⼆つに分かれています。基本的には、学⽣と企業が磨きあう・相互にぶつかり合っていくプログラムなので、⼤⼈が安⼼してとかではなくて、⼤⼈も磨くし学⽣も磨く。磨きあうことを⼤事にしているプログラムです。かつ、学⽣が基本的には⾃分で考えて、主体的に⾏動していくというのが肝となるコンセプトですね。具体的に⾔うと、チームも⾃分たちで作るし、メンターも⾃分たちで選ぶ。メンターを⾃分で選ぶことってなかなかないですよね。⾃分たちが共に学ぶ5ヶ⽉間の学習環境を、基本的には⾃分で選ぶっていうコンセプトを⼤事にしています。いきなり初⽇にして⼤⼈がプレゼンしていきなり選ばれる。
前⽥:ドラフト会議での逆指名みたいに。
樫原さん:学⽣同⼠も競わせます。基本的には、ずっと磨き合って5ヶ⽉間を過ごしていく。メンターが並⾛した上で、最後はチーム間で相互フィードバックしたり。最終⽇は、今後、⾃分がどうリードしてどう⽣きていくかってことまで内省までします。だから⼈材育成で⾔われる様なコンセプトは、要所要所⼊れながらも最先端のチャレンジを沢⼭していきます。今回の6社も皆さんもよくのってくれましたよね。
湊:参加する学⽣たちに、このプログラムを通じてどう変わって欲しいですか?
樫原さん:そうですね。⼀つは、リーダーとして何をなすのかという、⽬的を⽰せる⼈になってもらいたい。その「覚悟」を持ってもらいたい。もうひとつは、⽬的のために⼤きな組織を巻き込んでいく⼒を⾼めてもらいたい。この2つが学んでもらえたらと思います。engawa young academyは続けていくこと前提なので、参加した学⽣が⾊んな会社に散っても、定期的にこの場で集まりながら、ここの場⾃体がオープンイノベーションの基礎になればと。20年後、ここの1期⽣が⽇本を変える⼤きな原動⼒になったよねって、幕末松下村塾みたいな場所に、この場所がなれたらすごくいいなと思っています。
前⽥:“engawa KYOTO”のコンセプトは、「ここは未知との境界線」。やっぱり学⽣も、未知のものに対して怖がらない学⽣。どんどんチャレンジしよう、アウトプットを何か作ってやろうという⼈間をどんどん輩出したいなと思います。その為にどうすべきかのビジョンまできっちりと持て、その為に⼤⼿企業から⾊んな影響や知識や知⾒、そして知恵を得て、どんどん⾃分なりの明確なビジョンにしていける⼈間を育てたいなと思います。
樫原さん:だから、特に後半は各現場で、まさに最前線で未知と戦っているような⽅々にも沢⼭来て頂いて、そこでの交流とかリアルなフィードバックとかを準備しています。そこで⽇本企業のプロトタイプのイメージじゃなくて、最前線で戦っていらっしゃる⽅々の想いとか⽣き様とかをこのプログラムで⽰せると、学⽣にとっても⾮常に学びが⼤きいのではないかと。そんな仕⽴てが後半にはあったりしますね。
湊:今後も続いていく構想のengawa young academy の未来像、展望は何ですか?
前⽥:展望はやはり、⾃らビジョンを描ける⼈間が1 ⼈でも輩出されて、新しい企業の中でドメインを創るようになることです。企業内起業であるとか、36 ⼈いるので同窓も出来るから、違う企業に散らばっていたけど、その⼈間同⼠がチームとしてミートアップされて連携して新しい枠組みを作るとか。⾊んな⼈を巻き込んで、新しい成果が⽣まれるのが、このプログラムの1 番の醍醐味じゃないかと思います。
樫原さん:そう。企業の中から鍵を開ける⼈が出てくれば、いつか我々にとって最⾼最強のエコシステムになるっていう。前⽥さん、ですよね?
前⽥:うん!(笑)
樫原さん:最終的にはそれによって、あの時お世話になった⽅々に発注しようって我々に来てくれたら、ありがとうございます!みたいな!(笑)
⼀同:(笑)