世界が認めるフレームワークを使って未来の本質課題を開拓するワークショップレポート(前編)

#プログラム/セミナー

電通 京都BACは山口周氏のベストセラーの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)のにて紹介され一躍有名になった、経営層向けに美大教育を行っている世界最高峰の美術系大学院Royal College of Art(以下、RCA)の教授、講師陣を京都に招聘し、2日間にわたる世界最高峰のビジネス×美大教育ワークショップ“Innovation Masterclass in KYOTO”を実施しました。Day1を前編、Day2を後編としたシリーズの記事でお届けいたします。

 

「MBA(Master of Business Administration)」(経営学修士)かつて、ビジネスの世界では、MBAを持つことがステータスとなり、ひとつの勲章とされてきました。今、世界ではMBAよりも、「Master of Fine Arts=MFA」(美術学修士)を持っている人材の方が重宝されているのはご存知でしょうか?
従来の経営学、統計学、マーケティングの方法論を使ってロジカルに“正しさ”を追求すると皆が同じ答えにたどり着き、それはすぐにコモディティ化していきます。いまの時代だから、ビジネスそしてイノベーションに必要なのは美大教育である、が通説になってきています。

 

例えば、サイクロン掃除機で有名なダイソン社の創設者であるJames Dyson氏はRCAの卒業生ですし、Airbnbの創業者の3人のうち2人がRhode Island School of Designでデザインを学んだ学生なのです。

 

今回のワークショップの大テーマは“人生100年時代の幸せをもたらす社会のあるべき姿”。高齢化社会の課題先進国とされている日本において、これから迎える人生100年時代に全ての人が生き生きと暮らしていくためのインクルーシブな商品やサービスなどのソリューションについて考えていきます。

 

ワークショップに先駆け行われたキーノートセッション

2日間のワークショップの初日の午前中には、ワークショップの背景にある大きな社会のトレンドや、これからの高齢化社会の商品やサービスに求められるキーコンセプトについての講演が行われました。

 

キーノートセッションは京都造形芸術大学の春秋座にて実施。ワークショップ参加者を中心に多くの人に参加いただきました

 

山口周氏

RCA のジェレミーマイヤーソン教授の基調講演に先立ち、ビジネスシーンでの美大教育の重要性を説いた著書も話題の山口周氏にキーノートの口火を切っていただきました。なぜ今、ビジネスに美意識が必要か、今回のワークショップにも直結するテーマについてわかりやすく、お話していただきました。

 

RCAのジェレミーマイヤーソン教授

 

続いて、今回のワークショップのメインファシリテーターを務めていただいたジェレミーマイヤーソン教授教授による基調講演が行われ、高齢化社会を見据えたイノベーションに求められるキーコンセプについてレクチャーいただきました

 

基調講演を受けて京都造形芸術大学 教授、さくらインターネット株式会社 フェロー、株式会社メルカリ R4Dシニアフェローである小笠原治氏、予防医学研究者の石川善樹氏にもご登壇いただき、それぞれの視点から、なぜ日本の企業ではイノベーションが興しにくいのか、また午後からの人生100年時代のインクルーシブデザインワークショップに向けた示唆あふれるお話を語っていただきました。

 


左からジェレミーマイヤーソン教授、小笠原治氏、石川善樹氏。ファシリテーターとして山口氏を迎えた豪華なメンバーでトークセッション

 

キーノートセッションの後は、京都造形芸術大学が誇るプロトタイピングファクトリー「ウルトラファクトリー」の視察や、CESの視察レポートなどでさらに情報インプットし、ワークショップへ挑みました。

 

ウルトラファクトリーディレクターで現代美術家のヤノベケンジ氏によるファクトリーの紹介

 

いざワークショップ本番へ


ワークショップは場所を移してengawa KYOTOにて実施しました

 

さて、今回のワークショップを設計する上で、とても重視したのは多様性です。ともすれば企業に勤める社会人だけで構成されてしまいがちなワークショップですが、今回は京都を中心に活躍される宗教家・美大生・起業家・伝統工芸家・行政職員の方々そして内閣官房からもお招きし、参加者それぞれが異なるバックグラウンドの持ち主でチームを構成。ダイバーシティ溢れるチームを組成することで、企業の言語や文化といった企業都合の事情を排除し、会話の公共性を高め社会課題の本質についで議論できる環境づくりをおこないました。

 

 

 

前述のとおり、ワークショップの大テーマとして“人生100年時代におけるウェルネス”を設定。その下にサブテーマとして「働くこと(Work)」「アイデンティティ(Identity)」「繋がり(Connectivity)」「移動性(Mobility)」「家(Home)」の5つのサブテーマを設け、各サブテーマにつき2チームずつ、計10チームでアイディエーションに取り組みました。

 

今回のRCAのワークショップで実践するデザインシンキングメソッドは“ダブルダイヤモンド”方式です。1つ目のダイヤモンドで「探索(Discover)」「定義(Define)」、2つ目のダイヤモンドで「展開(Develop)」「提供(Deliver)」というそれぞれのフェーズに分けてアイデアの発散と収束を繰り返し、さらに各フェーズで「具体(Concrete)」と「抽象(Abstract)」のそれぞれの思考でアイデアを発散・収束させることで課題の定義、機会の発見、解決策の探索というプロセスをたどります。

 

 

第一のフェーズ「探索(Discover)」で課題を発散

 

このフェーズでは、それぞれのサブテーマにおける本質的な課題を発散させます。
例えば、「Work(働く)」のグループで実際に議論された課題は、以下のようなものでした。
・若者とシニアの共存の難しさ
・年功序列や定年制度といった制度に潜む課題
・人間としての尊厳を保つ上での承認欲求の充足をどう生み出すか
・スキルを可視化してマッチングができないか?
・シルバー人材サービスでは高齢者のスキルを活かしきれていないのではないか
このようなたくさんのインサイト・深掘りのコメントを出し、その中でも印象的なもの、強い課題のもとになりそうなもの、今まで気づかなかったものといった視点で選んだものを抽出していきます。

 

このワークショップで大切にしていることの一つが可視化です。各フェーズのアウトプットを整理していくのに適したフォーマットが用意され、振り返ったときに美しく、わかりやすくなっていきます。このDiscoverフェーズでは、抽出されたものをツリー型のフォーマットに貼っていきます。“ツリーの枝は細い“という前提のもと、たくさん出た意見を慎重に抽出し、枝を折ることなく本質課題を見極めていくことに必要な意味のあるファインディングを選んでいきます。

 

 

第二のフェーズ「定義(Define)」で課題を発見

 

発見(Discover)フェーズで見つけた気付きをチームごとで発表した後、第二のフェーズ「定義(Define)」に入ります。このフェーズを経るとおのずと取り組むべき課題に対するソリューションを考えていく上での指示書となる「デザインブリーフが出来上がります。このフェーズが一番難しく、ここを乗り越えて良いブリーフを出すことができれば、あとは楽だ、とRCAのファシリテーターも口をそろえるほど困難なフェーズです。ここでは、発見(Discover)フェーズで得た気付きのツリーを見ながら抽象的な思考をもって「要するにその課題の本質は何?」という問いを繰り返し、課題を見つけていくという作業になります。

 

ファシリテーターの説明も熱が入る

 

 
発見(Discover)フェーズのアウトプットを見ながら抽象的にDefine(定義)していく。右はDefineフェーズのアウトプットフォーマット

 

Discoverフェーズの枝を参考にしながら抽象度を上げ、見つけたいくつかの課題をさらに抽象的にとらえ、骨太な課題を発見していきます。
参加者も四苦八苦しながら、それでも発表後の一言目には「よい課題を得た」とRCAのジェレミー教授も舌を巻くほどの課題を抽出することができました。

 

発表の様子

 

これで一日目は終了。二日目はいよいよ解決方法の模索に入ります。

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#プログラム/セミナー

【11月19-20日】Island Innovation Demo Day 2021 開催決定!

島という環境が抱える共通課題を見つめ相互発展目指すIsland Innovation Project。本プログラムの一環としてオンラインイベント「Island Innovation Demo Day 2021」を11月19日~20日の2Dayにて開催します!  Day1 概要  2021年11月19日 9:30 開始 ~ 12:00 終了(予定) ご視聴登録はこちら 同時通訳が入ります。 ご登録いただけたら、後日録画リンクを送ります。 リアルタイムでなくてもぜひご登録ください!!! DAY1では、日本とハワイの起業家、投資家、企業パートナーが一堂に会し、さらに、素晴らしい審査員をお迎えし、一般公募で募集し選抜されたサステイナブル社会の実現を目指すハワイのスタートアップ6社が、日本の聴衆に向け、各社が捉えた課題、そのソリューションについてプレゼンテーションを行います。 ■タイムスケジュール  09:30     オープニング  09:35     オープニング・セッション  09:50   スタートアップ企業によるプレゼンテーション  11:10     スピーカー・セッション  11:40   審査結果発表  12:00   終了 ■登壇スタートアップ  Hohonu                     https://www.hohonu.io/ 3Rwater                    https://www.3r-water.com/ PlantBaby                  https://www.plantbaby.co/   Greenshoot                https://www.greenshoot.org   KAS                           https://www.kuehnleagro.com/   Blue Planet Energy      https://www.blueplanetenergy.com/  ■審査員 Dai Yoshida    Managing Partner / Blackbelt Legal, Inc. Makiko Suzuki    Principal / Acario Innovation LLC /Tokyo Gas Co., Ltd. Nick Sugimoto    CEO / Honda Innovations, Inc. Risa Ishii    Director of Japanese Partnerships / Plug and Play Tech Center Nobu Morita    Director of Innovations / NEC X Keisuke Kamiich    Designer / Dentsu Inc.    Day2 概要  2021年11月20日 7:00 開始 ~ 10:00 終了(予定) ご視聴登録はこちら 同時通訳が入ります。 ご登録いただけたら、後日録画リンクを送ります。 リアルタイムでなくてもぜひご登録ください!!! DAY2は、ハワイと日本のイノベーター、投資家、創業者、ベンチャーキャピタリストをオンラインでつなぎ、日本とハワイ、双方の資産を活用し、いかにアイランド・イノベーションを実現するかを話し合うディスカッション、カンファレンスイベントとなります。 日本の技術をハワイのコミュニティ、特にESGのテーマで革新的に活用するには?日本のスタートアップや企業が、ハワイの文化や地理的優位性を活用し、どのようにイノベーションを加速させ、グローバルにビジネスを展開していくのか?日本の企業やスタートアップ、技術などの資産を活用した場合、ハワイが経済を多様化するメリットは何か?ディスカッションテーマ (30-45分)x 4テーマ程度を想定しています。 ■タイムスケジュール  07:00 オープニング  07:10 島嶼地域におけるEVの将来性  07:55 女性のエンパワーメントと気候変動  08:45 ハワイではどのようにしてテック・スタートアップをBIGにすることができるのか?  09:15 ハワイの観光業の革新と多様化   10:00 終了   ■テーマ×登壇者  Theme 1  島嶼地域におけるEVの将来性(原題:The future of EV in Island Communities) アイランド・イノベーションでは、電気自動車の分野で活躍する3人のリーダーを招き、ハワイでの開発機会をどのように見ているか、また、ハワイでの電気自動車の普及を支援するための政策提言活動を行ってきた過去の経験をお話いただきます。 〇登壇者  Scott Glenn (Chief Energy Officer for the State of Hawaii)  Nick Sugimoto (CEO of Honda Innovations)  モデレーター: Chenoa Farnsworth (Managing Partner of Blue Startups)​  Theme 2  女性   のエンパワーメントと気候変動(原題:Women Empowerment and Climate Change​) 国連によると、特に発展途上国   では、男性よりも女性の方が気候変動による悪影響を受けているケースが多いと言われています。このセッションでは、ハワイと日本の両方から4人の女性にお越しいただき、ビジネスのためのエネルギーやネット・ゼロ・ポーリング・ポリシーの作成に関する幅広い知識を共有し、女性が企業の方向性にプラスの影響を与える方法について議論します。 〇​登壇者  Makiko Suzuki (Principal at Acario Innovations )  Chenoa Farnsworth (Managing Partner of Blue Startups)  Tiffany Huynh (Director of External Affairs at Elemental Excelerator)  Yuko Masuda (Business Development Manager at Marubeni Power International )  モデレーター: Takaho Iwasaki (MajiConnection)  Theme 3  ハワイではどのようにしてテック・スタートアップをBIGにすることができるのか? (原題:How a tech startup can be BIG in Hawaii? ​) 一般的に考えられていることとは異な   り、ハワイを拠点としたビジネスは、国内および国際的に成功する可能性があります。今回は、ハイテク企業を立ち上げたプレゼンターに、ハワイでビジネスを立ち上げ、成長させた経験を語っていただきます。   〇​登壇者  TBA  Theme 4  ハワイの観光業の革新と多様化 (原題:Innovation & Diversification in Hawaii‘s tourism) COVID-19がハワイのビジネスに影響を与え、多くの人がハワイの経済の多様化を唱えています。しかし、観光自体はどうでしょうか?このセッションでは、ハワイと日本の観光関連分野の専門家3名に、日本人観光客のハワイ旅行に対する考え方がどのように変化したのか、また、ハワイの観光産業はどのように振る舞うべきなのかを議論していただきたいと思います。 〇​登壇者  TBA 不明な点等ございましたら、Island Innovation Project事務局までお問い合わせください。 *イベントの内容に関し、登壇社、審査員等変更になる可能性がある旨ご了承ください。 お問い合わせ先:Island Innovation Project事務局  iip@engawakyoto.com  

#プログラム/セミナー

6月29日16:00~ 開催決定!REMOTE engawa「選択的卵子凍結で考える女性の未来」

フェムテック(Femtech)とは、女性特有の課題を解決するテクノロジーの略語で、国内でも急速に市場が形成されようとしている注目領域です。日本は世界経済フォーラム「世界ジェンダー・ギャップ報告書2020」によると総合スコアが対象153カ国中123位と非常に低い評価であり、女性の社会進出に大きな課題を残しています。また、体外受精実施件数が年間約45万件であり、世界最大の不妊治療大国となっているのが現状です。本イベントでは、女性の未来を考えるうえでの選択肢の一つとして、「選択的卵子凍結」を取り上げます。電通のFemtech特化チームであるFemtech and Beyond、選択的卵子凍結の保管サービスを提供するGraceGroup、世界最大級のアクセラレーターであるPlug and Play Japanがご案内します。 ■PROGRAM 6/29(火)16:00~17:30@Zoom 参加無料! 16:00 – 16:10 Opening ~Femtech and Beyond~ ㈱電通 & Plug and Play Japan㈱ 16:10 – 16:30 米国の卵子凍結状況および今後の日本展開の予想:                          Scrum Ventures LLC Biz Dev Manager 大嶋 紗季氏 16:30 – 16:50 不妊治療の現状と選択的卵子凍結について:㈱グレイスグループ 代表取締役CEO 花田 秀則氏 16:50 – 17:05 多様な組織づくりを目指す社内福利厚生制度についての説明:                        ㈱メルカリ People Experience Team Manager 幸野 俊平氏        ㈱メルカリ様の社内福利厚生制度については  https://mercan.mercari.com/articles/28534/ 17:05 – 17:20 パネルディスカッション 17:20 – 17:30 Q&A 17:30 Closing ■参加登録はこちらから https://bit.ly/2U57o2X ■ウェビナーをさらに有効にご活用いただくために… 参加をご希望の方は事前に動画を視聴いただくことを推奨いたします。 【~宇賀なつみと学ぶ~「10分で分かる卵子凍結」】 皆さんのご登録お待ちしています!!  

#プログラム/セミナー

【5/20(木)16:00~】REMOTE engawa フェムテックセミナーやります!

ウェビナー形式で最新トピックスをお伝えする”REMOTE engawa”で 待望のフェムテックテーマで実施いたします! フェムテックとは、女性特有の課題を解決するテクノロジーの略語で、いま日本でも急速に市場ができようとしています。大企業もこぞって注目するこの市場の国内外の事例をビジネスモデルから解剖します。電通のFemtech特化チームであるFemtech and Beyond、日本のフェムテック市場をけん引するfermata社と世界最大級のアクセラレーターであるPlug and Play JapanのKyotoチームがご案内します。 プログラム 前半:Femtech市場概況と海外ケーススタディ 1.日本におけるフェムテック市場について (15分) 2.海外事例のご紹介とビジネスモデル解剖(35分) 3.Q&A(5分) 後半:国内フェムテックスタートアップ 1.Plug and Play Japanご紹介(10分) 2.スタートアップピッチ( vivola 社)(5分) 3.パネルディスカッション+QA(20分) 登壇者   概要 日時:2021年5月20日(木)16:00~17:30 @Zoomウェビナー 参加申込サイト にて、必要事項を入力しお申し込みください。 申込完了後、視聴URLが登録いただいたメールに送信されます。 https://plugandplay.zoom.us/webinar/register/WN_XABPBlQzSG2yxSSqe9qipg 参加費は 無料 です!