プロトタイピング前提のハードウェアワークショップ、 ウルトラワークショップに参加してきましたレポ

#プログラム/セミナー

8月19日、日本有数のプロトタイピングファクトリー「ウルトラファクトリー」を擁する京都造形芸術大学にて、(株)電通と(株)クロステックマネジメント(URL:http://xtech-m.co.jp/)共催でワークショップが行われました。JAMJAM!ライターの奥田もスタッフの一員として参加してきました。今回はその模様をお届けします!


実績多数!ウルトラファクトリーのすごさ

わたし個人の経験として、“ワークショップ(以下、WS)”と呼ばれるものを幾度となく実施してきましたが、このWSの特徴のひとつは出口設計を“ハードウェアのプロトタイピング“に定めたという点でした。それを可能にするのが前述の「ウルトラファクトリー」です。現代美術作家であり京都造形芸術大学の教授でもあるヤノベケンジさんがディレクターを務め、劇団四季やビートたけしさんとのコラボレーションなど実績多数。金属、木材、樹脂加工等の設備に加え、デジタル造形機材など、これからのものづくりに不可欠な機材が充実したファクトリーです。DMM.makeの仕掛人でもあるABBALabの小笠原治氏も監修し、日本でトップクラスに充実したファクトリーになっています。
(詳しくはhttps://www.kyoto-art.ac.jp/art/special/ultra/

今回のWSでも、参加者全員でウルトラファクトリーを見学し、多種多様な機材とそれぞれで何ができるかなどの説明があったり、ヤノベケンジさんから直々にファクトリーの説明を受けたり、アイデアの刺激を大いに受けてスタートしました。

ウルトラワークショップはなにが“ウルトラ”なのか

今回のWSのもう一つの特徴として、参加メンバーの多様性がありました。課題を振り出す大企業の担当者と芸術大学の学生や教員、ウルトラファクトリーに精通したテックスタッフ、トレンド視点から刺激を与える雑誌社やテレビ局、新聞社からメンバーが参加し、広告代理店の電通からもメンバーが入った混成チームで、まる一日頭を突き合わせてアイデアを出していくという方法で進めたWS。大企業側が持つそれぞれの課題の振り出しに始まり、アイデアを出すところから絵に落とすところまで、学生の自由なアイデア発想、芸術大学だからできるビジュアライズ、広告代理店のファシリテーション、具現化に向けた芸大教員のプロの手腕など、参加したそれぞれが役割を果たし、たった1日でここまで?というレベルのアウトプットに落とせたことが、参加側としても大満足のWSでした。

WSの最後は各チームの企業担当者からアウトプットのプレゼンテーションセッション。スペシャルアドバイザーとしてヤノベケンジさんと投資家で京都造形芸術大学クロステックデザインコース教授の小笠原治さんという超豪華な布陣で切れ味の鋭い評価をいただき、最後はそのコメントをもってブラッシュアップというプロセスをもって一日は終了。最後の最後まで各チーム、熱のこもったディスカッションでさらにビジネスアイデアが磨かれました。

ウルトラワークショップの本領はここからです。通常、WSはその場でアイデアを出して終わってしまうことが多いですが、今回のWSは出たアイデアをウルトラファクトリーでプロトタイピングし、実際の製品に近いものを触れるモックアップとして制作し、今後のビジネス化に向けた推進力として使っていきます。今回参加された大企業それぞれの課題レベルにより進め方も変わるのですが、みなさんの手に届くものになるよう勧めていきますので、乞うご期待です。

参加者のミニインタビュー

大学事務局長の吉田さん、スペシャルコメンテーターの小笠原治さん、参加企業のみなさんにミニインタビューをさせていただきました!

京都造形芸術大学 事務局長 吉田大作さん

今回の取り組みを実施してみて、企業が複数社集まって、同じ環境の下で自分たちの課題を解決したり、自分たちの新しい価値を生み出そうとしたりする環境自体に意味があると思いました。企業があまり直接関わることのない芸術大学という場所で、チームの中に学生たちも入って議論を展開していくというところに産学連携の可能性を感じました。

吉田さんは芸術大学の学生のアイデアを社会実装するというところに可能性や必要性を感じておられるとおっしゃっていました。今回の取り組みはかなりその理想に近い取り組みだったと感じますが、そのあたりはどうでしょう。

非常にそう思いました。重要なのは、多視点の意見を企業側が受け止められるかどうかというところ。学生のアイデアは、行き詰ったときの打開策のヒントになる可能性としても考えられます。そういうアイデアを受け止めるということは開発プロセスとして大事だと思う。

本日、夏休みにもかかわらず学生さんたちが多く参加してくれましたが、彼らのモチベーションはどのようなものなのでしょうか。

企業と一緒にアイデアを考えるというのは、大学としても機会を多く持たせているつもりではありますが、長期にわたることが多いのが実情です。今回は短期間でそれが体感できるプログラムとして学生にも魅力に映ったのではないかと思います。

京都造形芸術大学 教授、(株)ABBALab 代表取締役社長 小笠原治さん

今回の取り組みは、初めての開催ということもあり、今後はより良くできるポイントがいくつか見えたと思いました。ただ、芸術大学の学生、広告代理店である電通メンバー、そして実際にビジネスにしていく企業の担当者という組み合わせはいままでなかったと思います。今後もぜひ続けていきたい取り組みです。

今後のプロセスの改善点は、どのようなところだと思われましたか?

発想の幅を広げるうえで、自分の所属企業を意識しない環境づくりが大切だと思います。主となる企業に対して広告代理店と学生が入るということも珍しいが、欲を言えば、主となる企業もミックスするという過程を踏んでみるともっと面白い意見が出そうです。

実験的に、主となる企業がまったくおらず、第三者メンバーだけで好き勝手アイデアを出す、みたいなプロセスをWS設計に組み込むのもおもしろいかもしれませんね。ところで、最終プレゼンのクオリティはいかがでしたか。

自分が別で進めているプロジェクトに似ているアイデアもあったので、1日にしてはクオリティが高かったと思います。ただ、発表内容に迷いを感じた部分もありました。可能であれば次回は2日間のWSにして、WSの終わりの段階で担当者が「会社に持って帰ってやろうぜ」という意気込みと自信を持てるようにしたい。1日目でアイデアを出し尽くして、2日目に実際に持ち帰ってビジネスにするにはどうすればいいかという議論までいけると、さらに意味のあるWSになると思います。企業内の上申プロセスも含めて議論して、例えば、他社からの提案という形にしたり、大学との共同研究という進め方にしたりなど、出たアイデアやその企業の課題感によって一番進めやすい形を模索していくところまでやっていけるとよいと感じました。

(株)ダスキン 丸山貴秀さん

社内で新商品開発の議論をしても、先に技術的にできるかどうかで判断してしまったり、会社がどう評価するかが気になったりして、アイデアの伸びがないことが多いです。今日1日WSに参加してみて、社外の方や学生と話していると、こうあるべき、こうあってほしいという生活者視点のアイデアがたくさん出すことができました。モノづくりの原点に立ち返らせてもらえて、いい刺激になりました。特に学生は世代が違うので、キャラクターものがあったらついつい買っちゃうよね、というぼくらにはない感覚のコメントが聞けて良かったです。結局うちの会社は40代以上の顧客が割合的に大きく、今後長い目で見て市場を形成していく若年層や単身世代という世代にはリーチしきれていないので、彼らがどういうものを求めているのかを開発に反映していくという重要性を再確認できました。

実際にビジネスとして社内に通していく立場として、今後の進め方としてどういう体制が動きやすいと思いますか?

自社で完結せず、他企業と組むことでこういうものが作れるんだよ、という前例を作りたいと思っています。他企業とタッグを組んで一緒に開発するという体制は社内で通しやすいと思います。

(株)スマレジ 川上知己さん

スマレジという会社はソフトウェア会社ですので、ハードが作りたいと思ったときに、どこに相談したらいいかわかりませんでした。今回のWSテーマはハードのプロダクト開発でまさに渡りに船。特に今回のWSチームにファクトリーのスタッフさんやプロダクトデザインを専門に学んでいる学生さんなどが参加してくれたので、慣れないハードウェア作りの迷いに対してプロのアドバイスがもらえて、とても有意義でした。たった1日で、ビジュアルアウトプットまでたどり着けたというのはすごく良かった。

プロダクトデザイン学科の学生が作ったビジュアルアウトプットがすごく良かったように、私も思いました。

京都造形芸術大学の学生のクオリティの高さに驚きました。デザインというのは、経験だけでは測れない、若い方のちょっとしたセンスが大切なところに、学生のアウトプット力が組み合わさってよかった。ぜひ実商品にしていきたいと思います。

吉忠マネキン(株) 青山実さん

今回参加して良かったと思うポイントははっきりしていて、自社内だけでやってるとわからないことに対し、社外のアイデアが入ることで良い刺激がもらえたということです。多様なメンバーと交流すること自体が身になったと実感しています。他社の方は違う考え方、違う軸をお持ちなので、我々になかった方向性が生まれました。とても勉強になりました。最終プレゼンテーションを終えて、アドバイザーからのフィードバック後の最終ブラッシュアップの時間でのチーム内の議論でまた大きくアイデアが変容するという経験もできました。ウルトラファクトリーで一度、小さくプロトタイプを作ってみたいと思っています。せっかくなので木工と鉄鋼のハイブリッドでかっこよくしたいですね。ハイソなイメージで作りたいと思います。京都なので、場所は鴨川沿いで実証実験もやりたいね、とチームで話していました。

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#プログラム/セミナー

電通、ハワイと連携して“Island Innovation Program“やるってよ!

1月31日、“電通、ハワイのコワーキングスペース事業者Jelly Works LLCと提携しengawa KYOTOのサービス・事業拡大”というタイトルのリリースが出ました!   ↑画像クリックでリリースのURLに飛びます   大人気の旅行先ハワイと京都でのコワーキングスペースの連携から始まる新しい取り組みということで、リリースの反響もかなりいただいております。このプログラムの象徴的なイベントとして5月下旬に京都とハワイを繋ぐ”Island Innovation Demo Day”も計画されています。 電通とハワイ?すこし意外とも思える組み合わせでのこの取り組みですが、取り組みの意図や背景、Demo Dayイベントについて総合プロデューサーである京都BACの田中 浩章さんに話を聞いてみました。     IIP統合プロデューサー田中浩章さん   ―そもそもなぜハワイなんですか? ハワイという場所は特別なんです。歴史的に日本人が多く移り住んでいて、いまでもたくさんのラストネームが日本人名のハワイ人が多く住んでいます。だからこそ、日本の独特と言われる企業文化に理解があり、日本のビジネスを受け入れる土壌が整っています。それでいて国としてはアメリカだから、日本のスタートアップから見ると、日本のマーケットを飛び出して北米市場を目指すとっかかりとしてチャレンジしやすい場所だと思います。 そしてハワイのスタートアップも、ルーツから日本市場を目指す企業が多く、ニーズがマッチしたというのが取り組みのきっかけでした。 ―では、“Island Innovation Program“について教えてください。 日本とハワイの共通項としての「島」というところを捉えて、あえてプログラムに“Island”とつけています。 デジタル化によって世界の画一化が進む中、固有の文化と異文化が共存、融合し、個性ある文化を育んできたお互いの「島」という環境に着目しています。歴史のつながりも深い日本とハワイがお互いの未来を構想する、双方の発展を目的とするプロジェクトとして「Island Innovation Project」を推進していきたいと思っています。     IIPの中心となる日米メンバー 左から順に、Jelly Works LLC, PartnerのLeo Rogerさん、電通 京都BAC 田中浩章さん、Jelly Works LLC, CEOのRechung Fujihiraさん、MajiConnection LLC, CEOの岩崎貴帆さん、Purple Mai’a Foundation, DirectorのAlec J.Y. Wagnerさん、電通 京都BAC 石原知一さん ―その中のキックオフ的なイベント“Island Innovation Demo Day”とはなんですか? このプロジェクト全体の象徴的なイベントにしたいと思っています。 具体的にはホノルル市にあるコワーキングスペース”Sand Box”と京都BACが運営主体となっている“engawa KYOTO”をオンラインでつなぎ、社会課題解決を目的にしたハワイのスタートアップが、日本の企業や資本家に向けてピッチをし、その逆に日本のスタートアップが、ハワイの企業、政府機関、投資家といったオーディエンスに向けピッチ行う相互のピッチ大会を予定しています。   Island Innovation Demo Dayイベント概要   ―どんな人に見に来てほしいですか? 日本から北米/世界、ハワイから日本/アジアと行きかう視点があるのでどなたが見てもそれぞれ学びは多いと思います。 具体的には、北米やグローバルへのビジネス展開を検討しているスタートアップ関係者や企業の新規事業担当者、ハワイの土地を北米・世界へ出て行くためのテストベットとしての価値に興味を持たれる方、ハワイローカルの有力企業、政府組織等とのコネクションを作りたい方、さらに、ハワイの島としての課題に取り組む日本市場や日本市場に興味のあるスタートアップについて関心のあるVC、CVC、企業の新規事業担当者といったところでしょうか。   ―では最後にプログラム全体の今後の展望をお聞かせください。 今回のプロジェクトを通して、電通が、日本起点のビジネスを世界に羽ばたかせるサポートができればと考えています。IIPは単にイベントを開催することが目的ではなく、そこに集った企業が世界に羽ばたくことを実質的にサポートしていくべく、プログラム開発も予定しております。 中心的な存在として、IIPのハワイ側でハワイ州がオフィシャルにかなり関わっています。日本では、企業同士の事業共創というトレンドはありますが、事業共創・ビジネスインキュベーションという点で、日本のパブリックセクターは課題解決という視点からは主体的能動的な動きが弱いと感じています。 官が主体になって、国の垣根を越えて、お互いの課題や、それに対する具体策・解決のためのアイデアを共有しあい、新たな未来を描くといった流れが作れても良いのではと考えています。 例えば、京都とハワイ、共通の困りごととして「観光客の多さ」からくる各課題があります。 京都市は“オーバーツーリズム”として捉え、一方ハワイでは“レスポンシブルツーリズム”を促進することでプラスに転換する方法を探っている。事象が同じでも、その捉え方が違うことによって見えてくる課題や解決策が異なる。新たな視野を取り入れることで、目指す未来像をもっと明確に持ち、新しい考え方を取り入れて、よりよい未来をつくるきっかけを作れるのでは、と考えています。 そうすることで、プロジェクトの目的である、互いの未来を考えあい、相互発展を目指すということを具体化していきたいと思います。   最後に、今回のプログラムのサポーターであるCentral Pacific BankのExecutive Chairmanであるポール与那嶺さんからIIPに対する思いを動画にていただきました。ぜひご覧ください!   ハワイでの取り組みやDemo Dayに興味のある方は、Island Innovation Program事務局までお問合せお待ちしております! iip@engawakyoto.com    

#プログラム/セミナー

広告づくりの手法をモノづくりに。クラウドファンディングCAMPFIREコラボ「香時計プロジェクト」

今回は、京都BACの実験的な取り組み“香時計プロジェクト”をご紹介いたします。   DENTSU JAM!× X-tech Management × CAMPFIREのモデルケースとして実施したプロジェクトで商品企画、プロダクトデザイン、プロトタイプ制作、クラウドファンディングの設計・実施、そして展示までを一気通貫でプロデュースした、京都BAC初のトライアルとなります。 ※ウルトラファクトリーと電通のコラボレーション事例はこちらの 記事 をご参照ください。   香時計は、すべてがデジタル化され、わかりやすく簡便化されている現代人のライフスタイルにゆとりをもたらす、“自分の時間をデザインする時計”として企画されました。 時間に振り回されるのではなく、じっくり自分と向き合う、特別な1時間を味わうためのプロダクトです。   一日の時間や気持ちにあわせてデザイン・香り違いの4種類のバリエーションを用意   時間を表現するために“灰が落ちる”というモーションにこだわった   プロデュースを担当した“Product Design Unitひとすじ”は アートディレクター中尾香那 と クリエーティブテクノロジスト三上美里 の2人からなるユニットです。   “Product Design Unitひとすじ”のお二人。アートディレクター中尾香那(左)とクリエーティブテクノロジスト三上美里(右)   彼女たちのもともとの素質としてのデザインセンスに加え、広告制作を通じて培った社会を切り取る目、それを手に取り触れるモノとして落とし込むという実験的なプロセスを経て、見た目に美しく、存在として新しい“香時計”というコンセプトが誕生しました。     お香としての実現性と美しさを兼ね備えるデザインにたどり着くまで、多数のデザイン案にて検討を重ねました   繊細な作業でプロトタイピングの方針を決めていく作業。実際に手を動かす中からの気付きも生まれます。   クラウドファンディングの目的は資金調達・達成ではなく支援者数。支援者の数を募ることで実現に向けた支援の輪を広げていきたいと考えています。 締め切りは1月末。引き続きご支援受付中です。 https://camp-fire.jp/projects/view/210144   なおプロトタイプ現物は、βooster studio by CAMPFIRE(渋谷パルコ1F)にて展示中。(〜1/31) 今後の商品化に向け、香時計の製造販売にご協力いただけるパートナー企業さまも、募集中です。     “Product Design Unitひとすじ“のお二人に話を聞きました 【アートディレクター 中尾香那さん】   ―そもそもなぜ”香時計”をつくることにしたのでしょうか? 中尾:何を作るか考える起点として、ただ単純にかわいいものや美しいものというだけでなく、電通が取り組む実験的なモノづくりという意味を考えて、世の中にメッセージを伝えられるものが良かった。その中で、京都という土地の特色である“クラフトマンシップ”や“伝統”を取り入れたいという思いで議論を重ね、香時計に行きつきました。   ―他にどういうアイデアがでましたか? お香のほかには仏具の”おりん”や日本人形をアップデートするというアイデアなどがありました。今回のプロジェクトが、ウルトラファクトリーとのラピッドプロトタイピングのモデルケース作りを目的としていたため、プロトタイプの必要性が高いプロダクトかどうか、自分たちの生活課題とのマッチングという観点で煮詰め、現状のアイデアに落ちつきました。   ―中尾さん的な、こだわりのポイントを教えてください 前述のとおり、コンセプトに重きを置き、説明が必要なプロダクトになることはわかっていたので、初見のインパクトとして「え?なにこれ?お香?」という一言を引き出すデザインというものを意識しました。 広告でいうところの「フック」に当たるポイントです。広告の手法を生かしたという点でもあります。 「吊るす」というデザインも「時間が流れる」ことを落ちていく灰で表現したかったからです。構造的・デザイン的に難しくはありますが、こだわっているポイントです。 実際に製品化していくためには、これから製造方法などを精査して、改めて検証が必要になるのですが、応援くださったみなさまの期待に答えるためにも、できる限り、いい形で世に出せるよう、頑張っていきたいと思っています。   ―電通がモノづくりをする意味とはなんだと考えますか? クライアントワークとしての電通の役割は、モノができあがってからという流れになります。もう少し前の段階からコミュニケーションを意識することで、メッセージとデザインが首尾一貫したプロダクトづくりができると思っています。このチームでは今後、モノづくりのプロセスのリデザインを目指していきたいと思っています。   ―では最後に、“Product Design Unitひとすじ“として今後の進め方は? 前述のようなモノづくりプロセスのリデザインに加え、広告作りの経験を活かした、直感的に心を動かすような、エモーショナルなモノづくりを目指しています。 私たちのモノづくりの考え方に共感くださり、ご一緒させていただけるパートナー企業様を募集中です!   【クリエーティブテクノロジスト 三上美里さん】   ―そもそも香時計にしたのはなぜですか? マーケットインでゴールを決めると既存プロダクトと差別化できないと考え、作り手である私たちのアイデンティティを反映し、すなおに欲しいと思えるものをブレストしました。論理的なものが好きな私と、伝統工芸が好きな中尾さんの両極の意見が合致したところが香時計でした。   ―自分たちが欲しいと思えるもの、とありましたが、消費者目線で香時計でなにを解決できると思いましたか? 消費者代表としてブレストを行なっていたので、効率化のためのデジタルツールに囲まれている自分たちが一番、時間に追われて余白がなくなっていることに気付き、それを解決できるものだと思いました。 長い間、人の生活に寄り添って淘汰されなかったお香をいまの生活に取り込むことで、人の本質を大切にできる=余白のなさを解決できると思いました。   ―作る中でこだわったポイントや、苦労したポイントはどこですか? 一貫して“電通としてのモノづくり“の意味を突き詰めました。その意味を大事にしながら、今後の”Product Design Unitひとすじ”の展開を見据えたうえでのコンセプトやデザインに乗せていくというところはこだわりでもあり、苦労したポイントでもあります。 また、私個人的に、古くからあるものが無条件に今も必要とは限らないと思っています。ただ、長い時間使われ続け、残り続けてきたと理由つまり価値があると思います。一方、便利になる世の中で、進化が急速すぎてひずみが生まれてきている現代に対して、長く残り続けてきたものがもつ理由や価値にヒントをもらうことができれば、骨太なコンセプトに昇華できるはずなので、そこからブレないことは常に意識しました。   ー今後、“Product Design Unitひとすじ”としてどう進めたいですか? 人の心を動かす広告のノウハウを持ってものづくりをするからには、カテゴリー全体をワンランク上げられるような象徴的なプロダクトを作っていきたいと思っています。そういう象徴的なものを作りたいと思ったときにご相談いただけるようなチームになりたいです。  

#プログラム/セミナー

祈りのかたち“京料理がきた道、器がきた道“ レポート

engawa KYOTOではindigenous innovationと称した、日本着想を源泉とした“ひと・もの・こと”のイノベーションを世界に向けて発信していく試みとして多様なプログラムを不定期開催しています。   一夜限りのアカデミックディナー 令和元年秋、皇位継承の年に新天皇が五穀豊穣を感謝し祈る大嘗祭が執り行われた。時を同じくして事業共創スペースengawa KYOTOでは“京料理がきた道、器がきた道”と称したアカデミックディナーが開催されました。今日わたしたちが食べている料理そして、それをいただくための器、その歴史を通してこれからの私たちの食文化が進むべき道について想いを馳せた一夜限りの晩餐です。   この夜のアカデミックディナーでは、京料理の原型とされる精進料理の名店、嵯峨野にある「さが一久」による精進料理が提供され、参加者は輪島塗の塗師、赤木明登 氏による縄文土器にまで遡っての器のかたちの原点についての解説を聞きつつ、一皿一皿運ばれてくる精進料理を嗜み、盃を酌み交わしていきました。     今回お料理を担当してくださった「さが一久」は、室町時代に一休禅師から直に精進料理の奥義を教えられ、その型を一子相伝で500年に渡り守り続けている名店です。   京都の中心街、烏丸通りに面した全面ガラス張りのengawa KYOTO2階に準備された会場、開放的なモダンな空間にオープンなアイランドキッチン、テーブルの上には輪島塗の本膳が華やかに並べられ、京料理と器をめぐるセミナーが始まりました。   本来であれば座敷にお膳が並べられるところ、今回はテーブル席での会食となったため、ひとりひとりお膳から器を取り上げて料理を食す体験を擬似的に体験してもらおう、という赤木さんの発案で、銘々のお料理一皿づつを輪島塗の御膳にのせて運び、各人が御膳から器を下ろして食べるといったスタイルでの配膳となりました。     神とともに食す、ということ 説によると古来、「食べる」という行為は、自然のエネルギーを身体に取り込む行為として捉えられており、それは自然への畏怖でもあり、不老不死への願いであり、人間の力がおよばぬ大いなる神への祈りであったと言われています。   食事は神饌として神に捧げられ、神様がお召し上がりになられた後、人間はそのお下がりを「いただく」。我々が何気なく日々使っている「いただきます」の語源はそこに遡るとされています。その年の収穫に感謝するとともに、神の御霊を身に体して生命を養うとされる大嘗祭に新嘗祭といった宮中祭祀からも、日本人にとって「食べる」ことは自然の恵みである食べ物を通じ神とつながる行為であったことがうかがえます。   神にささげた神饌を司祭者・参加者がいただく「神人共食」。神人共食を通して、神と人との親密さが生まれ,人は神を敬い守護を受け報謝する。この習わしは人間同士の「共食」の習慣へと発展し、ともに飲食を行うことで人間同士の絆をつよめ,共同体としての心理的安全性を育み社会の発展を促してきました。   輪島塗・塗師 赤木明登さん   この共食は、器の発展にも繋がっていきました。今回使われた輪島塗のお膳、宗和本膳はまさに、ハレやケの宴、共食に使われるものです。ただ現代の生活ではこのようなお膳を用いた共食の機会も減り、本場輪島でも使われる機会が減少していると言われています。赤木さんの工房では、お弟子さんの年季明けを祝う慶事にこのようなお膳が登場しますが、今では輪島でも伝統的な本膳を使う年季明け式を行うのは赤木工房だけとか。神人共食を心身で感じとる機会が日本の隅々で消滅しつつあります。       祈りのかたち 会の中盤には赤木さん秘蔵の縄文土器や平安時代の漆器が次々と登場、その形状のもつ意味についてレクチャーが繰り広げられました。それらの器は各テーブルを回り、参加者はその器を直で触るという貴重な体験が与えられました。     今回赤木さんが解説をした器のうちの一つ、世界最古級の器である縄文土器の陶片は、縄文土器特有の縄模様が施されています。縄文土器の出現により、煮炊きという人類にとって革命的な調理方法が飛躍的に発展しました。このことにより、栄養の吸収が高まり、食べられる食材が増え人類の生存圏が広がっただけでなく、食が文化として昇華していく大きな土台がつくられました。「実は縄文土器に施されている縄模様は、縄ではなく蛇を模したものではないかと言われているのです」と赤木さん。不思議な生き物、蛇は古来より山の神の遣いとして崇められ、その力に授かりたいという祈りが器の意匠にも現れていたのではないかと、赤木さんはつづけます。     世界最古級の器、縄文土器の陶片   次に説明されたのは時代をずっとすすめて、平安時代の漆のお椀。普段我々が使うお椀の底についている高台、この高台も祈りの形だ、と赤木さん。諸説あるなか、天の恵みに対する感謝、神への畏敬、そして神からの下がりもの、としての食物を粗末にしてはいけないという畏怖の念から、高台の形状は進化していったのではないだろうか、と赤木さんは推理されます。この高台付きのお椀も日本人の祈りの形として脈々と現代まで受け継がれてきたのです。         一皿に写しだされる自然の美 その夜のもう一つの主役が「さが一久」当代の津田達也さんによる精進料理。今回お料理をご用意くださった「さが一久」は室町時代一休禅師より教えられた精進料理の型を、500年来一子相伝で今日まで受け継いできた精進料理の老舗です。精進料理は中国に渡り禅宗を学んで帰国した僧侶たちによって日本に持ち込められ、広められました。その中でも曹洞宗の開祖道元は、幾分食いしん坊のご性分で、仏教修行よりも食文化に強く心を惹かれたので、日本に精進料理が広まったのではと、津田さん。精進料理は修行のひとつとして僧侶自らが調理し、その技術を磨き上げていき、の調理技術の世俗への伝播が、日本料理の独特の発展を支えてきました。     この夜の献立は   向    蓮根白和え・水前寺海苔・紅葉麩   汁椀    焼き豆腐・大根煮・三つ葉・粟麩   平椀    塔地湯葉・松茸・柚子・菠薐草   煮しめ    擬製豆腐・利休麩・湯葉・松茸           栗・松葉銀杏・酢蓮根・紅葉麩・筏牛蒡   茶椀    胡麻豆腐・山葵   酢物    松茸・黄湯葉・菠薐草   八寸    湯葉真丈・岩茸・ゆべし   飯    散飯   香物    柴漬・大根漬   酒    奥能登の白菊   精進料理は動物性の素材を一切使うことなく、植物性の素材から滲み出る旨味をベースに火加減と時間をかけてじっくりと味付けを行なっていく、「時には2,3日かけてじっくりと火加減と味付けを吟味していく」こう津田さんは話します。煮しめが盛られた器には、紅葉麩、松葉銀杏が彩られまるで秋の庭がそのまま一皿に写されたようです。日本人がもつ自然界への憧れ、そして畏敬の念が器のうえに再現された世界からも感じとれます。     500年続いてきた精進料理の原型を当代として守りつづけている津田さんは、一歩でも先代の味に近づけているか、日々自身に問いながら料理をつくり続けていると言います。禅宗では食事をいただく際に“五観の偈”という偈文を唱えます。それは自分の口を通していただく多くの命によって我々は生かされていることへの思いを改めるひと時です。   「さが一久」当代 津田達也さん   むすびに 食べる、それは神とつながり自然界の命をいただく感謝の行為、不老不死を祈る気持ち。人間が自然や神ともっと近かった太古から、祈りや願いが込められ脈々と人間の手を介して進化をつづけてきた「料理と器」。その形をめぐるレクチャーを聴きながら、形とは容(かたち)、祈りや願いを込める器であることに気付かせられた夜でした。料理と器の系譜からみるとほんの一瞬の現生において、それらを食し、使う私達は、太古からの祈りや願いを伝えていく媒介にすぎないのではないか、という思いがよぎりました。自然界からの多くの命によって生かされ、脈々と続いてきた太古からの祈りや願いを運ぶ媒介として、私たちはどう生き何を次の世代に残していくのか、この問いはこれからの時代の、そしてindigenous innovationをコンセプトに掲げる事業共創スペースengawa KYOTOの大きなテーマでもあります。