世界遺産を舞台にした国際アートフェアartKYOTO 2019初開催を裏側から語る全レポート

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2019年9月に初めて開催された国際アートフェア「art KYOTO」の開催までの軌跡、そして、本番期間中の様子を、artKYOTOの裏側で動いていたプランナー伊藤の視点でご紹介します。

 

世界遺産二条城を舞台にした国際アートフェア artKYOTO 2019

artKYOTOは、京都の歴史や文化を背景に、日本のアートシーンの発展、アート産業振興の原動力となることを目的として、2019年9月6日~9日に世界遺産二条城を舞台に初開催された国際アートフェアです。

 

artKYOTO 公式ロゴ伝統と創造性を表す「折り紙」をモチーフにしたデザイン

 

アートフェアとは、アートを観るだけでなく、実際に購入ができるイベントです。
世界では、スイスのアート・バーゼルなどが有名ですが、今回のartKYOTOは、世界遺産、しかも、城を舞台にしたアートフェア、という世界初といえる試みでした。

 


artKYOTO 2019会場 二の丸御殿台所外観

 

初開催にも関わらず、国内外から名だたるギャラリー・美術商31軒が集い、4日間の期間中の総来場者は約1万人、メディアにも多数取り上げて頂きました。

 

artKYOTO開催中の様子 (Photo by office TKD)

 

後援には、内閣府をはじめ5省庁、73カ国大使館/領事館、メディア各社にご協力を頂きました。

電通は、このプロジェクトに対して、京都市他と同じ主催の1社として、通常とは違うレイヤーで、ゼロからの事業立ち上げに関わりました。


 

新しい時代に、京都ではじめる意義

artKYOTO会場に向かう来場者 (Photo by office TKD)

 

2019年は令和という新時代がはじまった年ですが、実は、過去の改元の多くは京都が舞台でした。しかし、今回の令和の改元を祝う祭事の多くが東京で行われることが発表されていました。京都を盛り上げる志を持つ京都BACメンバーを中心として、この時代の節目にここ京都で何かできないか、という思いが募り、企画がスタートしました。

時代のトレンド「アート」と「京都」のコラボレーションイベントを、場所は大政奉還という時代の転換点となった場所「二条城」で実施したいという構想がメンバーの中で持ち上がりました。

二条城での開催に向けては、門川大作京都市長をはじめ、多くの行政の方にご協力を頂きました。貴重なアート作品が、歴史遺産に並ぶ。その作品を手に取る世界中のVIPアートコレクター。そんなシーンを作り出すべく、前例のないプロジェクトが動き出しました。

2019年1月にはartKYOTO開催のプレスリリースを配信。多くの反響を頂きました。さらにその後、京都での初開催に向けて、artKYOTO実行委員会を発足し、体制を確立しました。

 


artKYOTO実行委員会設立 記者会見の様子。左から、來住尚彦(一般社団法人 アート東京代表 理事)、渡邊隆夫(京都府中小企業団体中央会会長・西陣織工業組合理事長)、門川大作(京都市長)、佐々木丞平(京都国立博物館館長)、近藤誠一(京都市芸術文化協会理事長、元文化庁長官)。(出典:artKYOTOプレスリリース)

 

 

歴史的空間とアート作品のコラボレーション

開催3か月前には、artKYOTO出展ギャラリーが決定。地元京都からの出展11軒を含み、国内外から集ったギャラリーは31軒。本物を知る「京都」でのアートフェアならではの、格式高いギャラリーが集いました。

実際に、artKYOTOの本番会場では、各ギャラリーのブースごとに、二条城の歴史的建造物を生かした展示がされ、古美術から近代、現代アートと歴史遺産の空間が融合して、来場者の驚きを生み出していました。

 

artKYOTO会場内の様子

 

artKYOTO会場内の様子(Photo by office TKD)

 

二の丸御殿台所と御清所(おきよどころ)では、24軒のギャラリーが出展・販売。天井に重厚な梁が渡り、土間と板間が一体となった歴史を感じさせる広い空間の入り口には、壁・床・天井がすべてガラスで構成されたガラスの茶室 「雪花庵(せっかあん)」(板橋一広、浦一也、”清昌堂やました”)が配置され、歴史とアートのユニークな出会いを象徴するものとして、来場者を迎えました。

 

ガラスの茶室 「雪花庵(せっかあん)」(板橋一広、浦一也、”清昌堂やました”)  (出典:artKYOTOプレスリリース)

 

また、その奥には、“NUKAGA GALLERY“からゴッホの水彩画が展示され、歴史的な空間の中に、古美術や工芸、近代美術、現代アートのあらゆるジャンルで活躍する国内外で評価の高いアーティストの作品が揃いました。

 

ゴッホの絵画を見つめる着物姿の女性。西洋と和の美の競演。“NUKAGA GALLERY” (出典:artKYOTOプレスリリース)

 

地元京都のギャラリーとして、時代にとらわれず優れた日本美術を扱う“思文閣”、古美術と茶道具を扱う“宇野商店”、若手作家から物故作家まで国内外の現代美術を紹介する“ART OFFICE OZASA”らが出展しました。

 

“思文閣” (Photo by office TKD)

二条城のお堀に面し、見張り台として建造された「東南隅櫓」では5軒の美術商が出展。仏像を展示した“古美術 柳”では、荘厳な雰囲気が感じられました。

 

二条城・東南隅櫓に空間に合わせた古美術作品の展示「古美術 柳」

 

artKYOTO 東南隅櫓会場の様子 (Photo by office TKD)

 

さらに、東南隅櫓を出てすぐの外庭に設けた特設ブース「ライブアートガーデン」では、“アンザイ ギャラリー”が出展。Instagramで245万人超のフォロワーを持つグラフィティ・アーティスト、Mr Doodle(ミスター ドゥードゥル)のライブペインティングパフォーマンスが行われ、集まった人々は日本の伝統的な庭園内と鮮やかなミスター ドゥードゥルの世界観の融合を楽しんでいました。

 

二条城内でミスタードゥードゥルによるライブペインティングを開催 “アンザイ ギャラリー”(出典:artKYOTOプレスリリース)

 

 

artKYOTO初開催を記念するセレモニー

artKYOTO開催初日には、二条城の東大手門に設けられた特設会場で、オープニングセレモニーが開催され、artKYOTO実行委員長を務める門川大作京都市長をはじめとする京都の団体、経済界、文化界を代表する実行委員と、安倍昭恵氏らゲストの計11名が、初開催のartKYOTO 2019の成功を祈念して鏡開きを行いました。

 


artKYOTO 2019 オープニングセレモニーでの鏡開きの様子。左から、大西 洋 株式会社羽田未来総合研究所 代表取締役社長、渡邉 隆夫 京都府中小企業団体中央会 会長、立石 義雄 京都商工会議所 会頭、田村 明比古 成田国際空港株式会社 代表取締役社長、コシノジュンコ デザイナー、來住 尚彦 artKYOTO総合プロデューサー、近藤 誠一 公益財団法人 京都市芸術文化協会 理事長、門川 大作 京都市長、安倍 昭恵 内閣総理大臣夫人、佐々木 丞平 京都国立博物館 館長、中野 善壽 東方文化支援財団 代表理事(出典:artKYOTOプレスリリース)

 

 

artKYOTOに来場者されたVIPへのおもてなし

artKYOTOではVIP向けホスピタリティとして、京都らしい様々なおもてなしをご準備させて頂きました。

 

VIPラウンジとして使用された「香雲亭」

 

さらに「ザ・リッツ・カールトン京都 」に用意した「artKYOTO 2019 Reception / KYOTO art night 2019」には、京都地域、公共機関関係者をはじめ、ギャラリー・美術関係機関、ビジネス界そして文化界など様々な分野から625名が集い、 artKYOTOの初開催を祝いました。

 

 

artKYOTO 2019 レセプションの様子。世界各国の大使館や京都を代表する方々、企業幹部にギャラリー、アーティストなど多彩な面々が集うレセプションパーティー(Photo by office TKD)

 

さらに、artKYOTO期間中は、京都内の様々なアートイベントとコラボレーションし、アートの街「京都」を盛り上げました。

特に、日本初開催となるICOM KYOTO(世界博物館会議)をartKYOTOのパートナーイベントとして、ICOM関係者をartKYOTOにご招待するなど連携を図りました。

加えて、京都市立芸術大学の若手アーティストの作品を展示するなど、次世代のアーティスト支援、京都のこれからのアートシーンに資する活動も行いました。

 

レセプション会場に展示された若手アーティスト作品に見入る来場者

 

さらに、artKYOTO来場者に配られるパンフレットは、二条城以外にもアートの街としての京都を楽しめるよう、京都のアートスポットを記載した「アートMAP」を掲載。artKYOTOを訪れた方へお配りさせて頂きました。

 

artKYOTO公式パンフレット (出典:artKYOTOプレスリリース)

 

 

5坪のギャラリーから世界を臨んだ。
engawa Kyotoでのサテライトギャラリー

2019年7月22日に京都にオープンした電通の事業共創拠点「engawa KYOTO」。
スタートアップや大手企業が集う事業共創拠点の施設入り口には5坪ほどのギャラリースペースが設けられています。

 

engawa KYOTO(右側手前がギャラリースペース) 写真提供:安田慎一

 

このギャラリースペースは、オープンから2ヶ月間、世界遺産・二条城で初開催された国際アートフェア「artKYOTO」のサテライトギャラリーとして、artKYOTO出展ギャラリーによる様々な作品が展示されていました。

 

engawa KYOTOギャラリースペース展示 (Photo by Oriental antiques Kanegae)

 

初開催を終えて

9月9日最終日、最後のギャラリー搬送車を見送り、無事に初開催を終えたartKYOTO。
artKYOTO全体を振り返れば、「舞台は世界遺産の前例なき挑戦」ということで課題も多数発生しました。そんな中でも、多くの方にご協力を頂き実現にまでこぎつけ、本番では来場者からも驚きや喜びの声を頂き、運営側にも多数の学びや喜びがありました。この場を借りて、ご協力を頂いた皆様に心から感謝申し上げます。

 

artKYOTOの取り組みをこれからどうやって広げていくか。やるべき課題はまだまだあります。まず、取り組みをより多くの方に届けるためにも、アートがもたらす価値を、言語化や定量化することが急務だと感じています。今は“分かる人だけに分かる”と敬遠されがちなアートの価値をより多くの人に伝えることができれば、アートの裾野は広がっていくと信じています。

 

さらに、アートを活用した企業ブランディング、アートを使ったコミュニケーションもまだまだやれることがありそうです。

 

京都の魅力を生かした事業開発を目指す

2020年オリンピック・パラリンピック、2021年には京都への文化庁本格移転、そして2025年には万博と、世界中の注目が日本に集まるタイミングがやってきます。それはつまり「日本らしさ」を語れるモノやコトに価値が見いだされていくチャンスとも言えるかもしれません。

 

京都BACでは、artKYOTOのように、京都を日本のオリジンとして、歴史や文化、そこに流れる美意識の価値を、京都の魅力、日本の魅力として事業開発に生かすことにこれからも挑戦をしていきます。

 

京都を舞台にした、Art×Craft×Scienceをテーマにした挑戦の場、そして、多様性に富んだ企業や個人が集う事業共創拠点としてengawa KYOTOを引き続きよろしくお願いします。

 

engawa KYOTOギャラリーにご興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください!

 

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プロトタイピング前提のハードウェアワークショップ、 ウルトラワークショップに参加してきましたレポ

8月19日、日本有数のプロトタイピングファクトリー「ウルトラファクトリー」を擁する京都造形芸術大学にて、(株)電通と(株)クロステックマネジメント(URL: http://xtech-m.co.jp/ )共催でワークショップが行われました。JAMJAM!ライターの奥田もスタッフの一員として参加してきました。今回はその模様をお届けします! 実績多数!ウルトラファクトリーのすごさ わたし個人の経験として、“ワークショップ(以下、WS)”と呼ばれるものを幾度となく実施してきましたが、このWSの特徴のひとつは出口設計を“ハードウェアのプロトタイピング“に定めたという点でした。それを可能にするのが前述の「ウルトラファクトリー」です。現代美術作家であり京都造形芸術大学の教授でもあるヤノベケンジさんがディレクターを務め、劇団四季やビートたけしさんとのコラボレーションなど実績多数。金属、木材、樹脂加工等の設備に加え、デジタル造形機材など、これからのものづくりに不可欠な機材が充実したファクトリーです。DMM.makeの仕掛人でもあるABBALabの小笠原治氏も監修し、日本でトップクラスに充実したファクトリーになっています。 (詳しくは https://www.kyoto-art.ac.jp/art/special/ultra/ ) 今回のWSでも、参加者全員でウルトラファクトリーを見学し、多種多様な機材とそれぞれで何ができるかなどの説明があったり、ヤノベケンジさんから直々にファクトリーの説明を受けたり、アイデアの刺激を大いに受けてスタートしました。 ウルトラワークショップはなにが“ウルトラ”なのか 今回のWSのもう一つの特徴として、参加メンバーの多様性がありました。課題を振り出す大企業の担当者と芸術大学の学生や教員、ウルトラファクトリーに精通したテックスタッフ、トレンド視点から刺激を与える雑誌社やテレビ局、新聞社からメンバーが参加し、広告代理店の電通からもメンバーが入った混成チームで、まる一日頭を突き合わせてアイデアを出していくという方法で進めたWS。大企業側が持つそれぞれの課題の振り出しに始まり、アイデアを出すところから絵に落とすところまで、学生の自由なアイデア発想、芸術大学だからできるビジュアライズ、広告代理店のファシリテーション、具現化に向けた芸大教員のプロの手腕など、参加したそれぞれが役割を果たし、たった1日でここまで?というレベルのアウトプットに落とせたことが、参加側としても大満足のWSでした。 WSの最後は各チームの企業担当者からアウトプットのプレゼンテーションセッション。スペシャルアドバイザーとしてヤノベケンジさんと投資家で京都造形芸術大学クロステックデザインコース教授の小笠原治さんという超豪華な布陣で切れ味の鋭い評価をいただき、最後はそのコメントをもってブラッシュアップというプロセスをもって一日は終了。最後の最後まで各チーム、熱のこもったディスカッションでさらにビジネスアイデアが磨かれました。 ウルトラワークショップの本領はここからです。通常、WSはその場でアイデアを出して終わってしまうことが多いですが、今回のWSは出たアイデアをウルトラファクトリーでプロトタイピングし、実際の製品に近いものを触れるモックアップとして制作し、今後のビジネス化に向けた推進力として使っていきます。今回参加された大企業それぞれの課題レベルにより進め方も変わるのですが、みなさんの手に届くものになるよう勧めていきますので、乞うご期待です。 参加者のミニインタビュー 大学事務局長の吉田さん、スペシャルコメンテーターの小笠原治さん、参加企業のみなさんにミニインタビューをさせていただきました! 京都造形芸術大学 事務局長 吉田大作さん 今回の取り組みを実施してみて、企業が複数社集まって、同じ環境の下で自分たちの課題を解決したり、自分たちの新しい価値を生み出そうとしたりする環境自体に意味があると思いました。企業があまり直接関わることのない芸術大学という場所で、チームの中に学生たちも入って議論を展開していくというところに産学連携の可能性を感じました。 吉田さんは芸術大学の学生のアイデアを社会実装するというところに可能性や必要性を感じておられるとおっしゃっていました。今回の取り組みはかなりその理想に近い取り組みだったと感じますが、そのあたりはどうでしょう。 非常にそう思いました。重要なのは、多視点の意見を企業側が受け止められるかどうかというところ。学生のアイデアは、行き詰ったときの打開策のヒントになる可能性としても考えられます。そういうアイデアを受け止めるということは開発プロセスとして大事だと思う。 本日、夏休みにもかかわらず学生さんたちが多く参加してくれましたが、彼らのモチベーションはどのようなものなのでしょうか。 企業と一緒にアイデアを考えるというのは、大学としても機会を多く持たせているつもりではありますが、長期にわたることが多いのが実情です。今回は短期間でそれが体感できるプログラムとして学生にも魅力に映ったのではないかと思います。 京都造形芸術大学 教授、(株)ABBALab 代表取締役社長 小笠原治さん 今回の取り組みは、初めての開催ということもあり、今後はより良くできるポイントがいくつか見えたと思いました。ただ、芸術大学の学生、広告代理店である電通メンバー、そして実際にビジネスにしていく企業の担当者という組み合わせはいままでなかったと思います。今後もぜひ続けていきたい取り組みです。 今後のプロセスの改善点は、どのようなところだと思われましたか? 発想の幅を広げるうえで、自分の所属企業を意識しない環境づくりが大切だと思います。主となる企業に対して広告代理店と学生が入るということも珍しいが、欲を言えば、主となる企業もミックスするという過程を踏んでみるともっと面白い意見が出そうです。 実験的に、主となる企業がまったくおらず、第三者メンバーだけで好き勝手アイデアを出す、みたいなプロセスをWS設計に組み込むのもおもしろいかもしれませんね。ところで、最終プレゼンのクオリティはいかがでしたか。 自分が別で進めているプロジェクトに似ているアイデアもあったので、1日にしてはクオリティが高かったと思います。ただ、発表内容に迷いを感じた部分もありました。可能であれば次回は2日間のWSにして、WSの終わりの段階で担当者が「会社に持って帰ってやろうぜ」という意気込みと自信を持てるようにしたい。1日目でアイデアを出し尽くして、2日目に実際に持ち帰ってビジネスにするにはどうすればいいかという議論までいけると、さらに意味のあるWSになると思います。企業内の上申プロセスも含めて議論して、例えば、他社からの提案という形にしたり、大学との共同研究という進め方にしたりなど、出たアイデアやその企業の課題感によって一番進めやすい形を模索していくところまでやっていけるとよいと感じました。 (株)ダスキン 丸山貴秀さん 社内で新商品開発の議論をしても、先に技術的にできるかどうかで判断してしまったり、会社がどう評価するかが気になったりして、アイデアの伸びがないことが多いです。今日1日WSに参加してみて、社外の方や学生と話していると、こうあるべき、こうあってほしいという生活者視点のアイデアがたくさん出すことができました。モノづくりの原点に立ち返らせてもらえて、いい刺激になりました。特に学生は世代が違うので、キャラクターものがあったらついつい買っちゃうよね、というぼくらにはない感覚のコメントが聞けて良かったです。結局うちの会社は40代以上の顧客が割合的に大きく、今後長い目で見て市場を形成していく若年層や単身世代という世代にはリーチしきれていないので、彼らがどういうものを求めているのかを開発に反映していくという重要性を再確認できました。 実際にビジネスとして社内に通していく立場として、今後の進め方としてどういう体制が動きやすいと思いますか? 自社で完結せず、他企業と組むことでこういうものが作れるんだよ、という前例を作りたいと思っています。他企業とタッグを組んで一緒に開発するという体制は社内で通しやすいと思います。 (株)スマレジ 川上知己さん スマレジという会社はソフトウェア会社ですので、ハードが作りたいと思ったときに、どこに相談したらいいかわかりませんでした。今回のWSテーマはハードのプロダクト開発でまさに渡りに船。特に今回のWSチームにファクトリーのスタッフさんやプロダクトデザインを専門に学んでいる学生さんなどが参加してくれたので、慣れないハードウェア作りの迷いに対してプロのアドバイスがもらえて、とても有意義でした。たった1日で、ビジュアルアウトプットまでたどり着けたというのはすごく良かった。 プロダクトデザイン学科の学生が作ったビジュアルアウトプットがすごく良かったように、私も思いました。 京都造形芸術大学の学生のクオリティの高さに驚きました。デザインというのは、経験だけでは測れない、若い方のちょっとしたセンスが大切なところに、学生のアウトプット力が組み合わさってよかった。ぜひ実商品にしていきたいと思います。 吉忠マネキン(株) 青山実さん 今回参加して良かったと思うポイントははっきりしていて、自社内だけでやってるとわからないことに対し、社外のアイデアが入ることで良い刺激がもらえたということです。多様なメンバーと交流すること自体が身になったと実感しています。他社の方は違う考え方、違う軸をお持ちなので、我々になかった方向性が生まれました。とても勉強になりました。最終プレゼンテーションを終えて、アドバイザーからのフィードバック後の最終ブラッシュアップの時間でのチーム内の議論でまた大きくアイデアが変容するという経験もできました。ウルトラファクトリーで一度、小さくプロトタイプを作ってみたいと思っています。せっかくなので木工と鉄鋼のハイブリッドでかっこよくしたいですね。ハイソなイメージで作りたいと思います。京都なので、場所は鴨川沿いで実証実験もやりたいね、とチームで話していました。